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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)10号 判決 1998年2月17日

埼玉県川口市仲町2番19号

原告

長島鋳物株式会社

同代表者代表取締役

長島博高

同訴訟代理人弁理士

鈴木秀雄

同訴訟代理人弁護士

岩谷彰

福岡県福岡市博多区堅粕5丁目8番18号

被告

日昭興産株式会社

同代表者代表取締役

浦上貞子

同訴訟代理人弁理士

福田賢三

福田伸一

大川洋一

福岡県福岡市博多区堅粕5丁目8番18号

被告補助参加人

日之出水道機器株式会社

同代表者代表取締役

浦上紀之

同訴訟代理人弁理士

福田賢三

福田伸一

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が昭和63年審判第18694号事件について平成6年10月20日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、名称を「地下構造物用蓋の開蓋構造」とする実用新案登録第1559107号の考案(昭和55年6月23日出願、昭和58年1月31日出願公告、昭和59年7月25日設定登録、平成5年1月31日存続期間満了、平成5年11月24日訂正審判請求公告、平成6年6月2日訂正認容審決。以下「本件考案」という。)の実用新案権者であった。

原告は、昭和63年10月25日、本件実用新案登録を無効とすることについて審判を請求し、昭和63年審判第18694号事件として審理された結果、平成6年10月20日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年12月14日原告に送達された。

2  本件考案の要旨

蓋本体1の周緑部の一個所に周縁部から中心に向け開蓋用治具4の掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2を開設し、該孔2の両側上縁部には周縁部から中心に向って内側に相対した張出し上縁部3を設け、上記張出し上縁部3の相対する間隔を掛止部7の巾より狭くしたことを特徴とする地下構造物用蓋の開蓋構造。(別紙図面参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  請求人(原告)は、甲第2号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第7号証ないし甲第22号証(枝番省略。本訴の書証番号)を提出して、次のような主旨の主張をしている。

「本件考案は、その出願前に日本国内において公然と知られ、かつ公然と実施されていたところの甲第7号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第4号証及び甲第5号証に示されたマンホール蓋の開閉構造に係る考案と同一であるか、仮に同一でないとしても、それらの考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条1項1号または2号の規定に該当するか、もしくは同条2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。」

(3)<1>  甲第7号証は、西宮市松並公園脇に敷設されているマンホール蓋の所在場所、外観形状、開閉用(開蓋用)治具、開蓋手順、蓋の裏面等を示す34枚の写真であるが、その第16番目、第25番目及び第26番目の写真を見れば分かるように、そのマンホール蓋の周緑に設けられているU字形の孔は、もともと開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾のもので、孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがないものである。

甲第13号証は、大津市中央区京町交差点付近に敷設されているマンホール蓋の所在場所、外観形状、開閉用(開蓋用)治具、開蓋手順、蓋の裏面等を示す43枚の写真であるが、その第18番目及び第19番目の写真を見れば分かるように、そのマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔は、もともと開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾のもので、孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部に相当するものがないものである。

甲第4号証は、神戸地方法務局所属の公証人嶋田貫一が、昭和63年8月25日に長島鋳物株式会社の嘱託に基づき、兵庫県西宮市松並町6松並公園脇の路上に敷設されている下水道用マンホールの蓋の開閉構造、治具を用いたその開蓋方法等の事実実験に関し、その現場に立ち会い目撃した事実を録取して作成した公正証書であるが、それに添付された83枚の写真から分かるように、それに示されたマンホール蓋は甲第7号証と同じものである。

甲第5号証は、大津地方法務局所属の公証人大石治男が、長島鋳物株式会社の嘱託に基づき、昭和63年4月15日に大津市中央区一丁目4番5号京町交差点近くの路上(京町通)のマンホール蓋が設置してあるところへ出張して、マンホールの蓋の開閉構造と治具を用いたその蓋の開閉動作を目撃した事実を録取して作成した公正証書であるが、それに添付された76枚の写真を見れば分かるように、それに示されたマンホール蓋は甲第13号証と同じものである。

甲第10号証は、株式会社荒木製作所が作成した「鉄蓋」に関するカタログであるが、それには、周緑に設けられたU字状孔(NM型の蓋)の具体的構造については詳しく示されていない。

<2>  したがって、甲第7号証、甲第10号証、甲第13号証、甲第4号証及び甲第5号証には、本件考案の構成に欠くことができない事項である次の点が示されていない。

「蓋本体1の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け開蓋用治具4の掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2を開設し、該孔2の両側上縁部には周縁部から中心に向って内側に相対した張出し上緑部3を設けた点。」

<3>  そして、甲第8号証は、作成者の記載のないマンホール蓋に関する図面、甲第9号証の1ないし3は、作成者の記載のない十字把手付き治具、三角把手付き治具及び円形把手付き治具に関する図面、甲第11号証の1・2は、作成者の記載のないマンホール蓋に関する図面、甲第11号証の3は、株式会社荒木製作所が作成したマンホール蓋に関する図面、甲第12号証は、株式会社神戸鋳鉄所の「鉄蓋」総合便覧、甲第14号証は、作成者の記載のないマンホール蓋に関する図面、甲第16号証は、JISA5506-1976「下水道用マンホールふた」、甲第22号証の1は、伊藤鉄工株式会社の昭和47年版建設用鋳鉄器材型録、甲第22号証の2は、合資会社北勢鋳鉄製作所の「ダクタイル鋳鉄」に関するカタログ、甲第22号証の3は、長島鋳物株式会社の41年度版の綜合カタログ、甲第22号証の4は、長島鋳物株式会社の「鉄蓋便覧」No.17であるが、それらにも、本件考案の構成に欠くことができない事項である前記の点は記載されていない。

また、甲第17号証は、長島鋳物株式会社が株式会社荒木製作所に、別紙添付の大津市マンホール蓋の写真(No.1~16)におけるマンホール蓋は、貴社において、1971年(昭和46年)に製造し、同年に上記場所に敷設したものであることを証明下さいとした証明願及び株式会社荒木製作所の証明、甲第19号証は、長島鋳物株式会社が株式会社荒木製作所に、別紙添付の西宮市マンホール蓋の写真(No.1~18)におけるマンホール蓋は、貴社において、1973年(昭和48年)に製造し、同年に上記場所に敷設したものであることを証明下さいとした証明願及び株式会社荒木製作所の証明、甲第20号証は、長島鋳物株式会社が株式会社神戸鋳鉄所に、別紙添付の写真(No.1~6)の西宮市小曽根町2丁目3に敷設されたマンホール蓋は、貴社において1979年(昭和54年)に製造し、同年に上記場所に敷設したものであり、別紙添付の写真((No.7~12)の西宮市小曽根町4丁目4に敷設されたマンホール蓋は、貴社において1973年(昭和48年)に製造し、同年に上記場所に敷設したものであることを証明下さいとした証明願で株式会社神戸鋳鉄所の証明が得られなかったものであるが、甲第17号証に示されたマンホール蓋は、それに添付された写真を見れば分かるように、甲第13号証に示されたものと同じものであるし、また、甲第19号証に示されたマンホール蓋及び甲第20号証に添付された写真(No.1~6)及び写真((No.7~12)に示されたマンホール蓋は、甲第19号証に添付された写真(No.5、6、12、17、18)、甲第20号証に添付された写真(No.4、6、10、12)を見れば分かるように、それらのマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔は、もともと開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾のもので、孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがないものであるから、それらにも、本件考案の構成に欠くことのできない事項である前記の点は示されていない。

なお、甲第2号証は本件考案の出願公告公報、甲第15号証の1・2は株式会社神戸鋳鉄所の登記簿謄本、甲第18号証の1・2は商標公報、甲第21号証の1・2は昭和55年実用新案登録願第93855号(考案の名称「蓋体用バール」)の手続補正書と登録異議の決定の謄本にすぎない。

(4)  そして、本件考案は、前記の点を構成要件とすることにより、「蓋本体を開閉する場合に、治具の掛止部が左右の張出し上縁部の下面に引っ掛かり、しかも掛止部の両端が孔の壁部に当接するため、治具の首部が左右の張出し上縁部の間隔より細くても横方向にずれ動いたり外れることがなくて安定することになり、重量のある蓋本体を安全に、確実に、しかも極めて迅速に開閉することができる」という、訂正明細書に記載されたとおりの格別の効果を奏するものと認められる。

(5)  してみると、本件考案は、甲第7号証、甲第8号証、甲第9号証の1ないし3、甲第10号証、甲第11号証の1ないし3、甲第12号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第16号証、甲第17号証、甲第19号証、甲第20号証、甲第22号証の1ないし4に示された考案と同一であるとは認められず、また、それらの考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認められないから、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案の登録を無効とすることはできない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)<3>のうち、甲第7号証、甲第13号証に示されるマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上縁部には、本件発明でいうところの張出し上縁部3に相当するものがない」との認定は争い、その余は認める。同(3)<2>は争う。同(3)<3>のうち、甲第17号証、甲第19号証、甲第20号証に示されるマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがないものであるから、それらにも、本件考案の構成に欠くことのできない事項である前記の点は示されていない。」との認定は争い、その余は認める。同(4)、(5)は争う。

審決は、本件考案と甲第7号証、甲第13号証、甲第4号証、甲第5号証、甲第17号証、甲第19号証、甲第20号証(以下、上記甲各号証を併せて「引用例」という。)に示されているマンホール蓋の開蓋構造との構成上の相違点の認定を誤り、かつ、本件考案の作用効果についての判断を誤って、本件考案の新規性及び進歩性の判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(構成上の相違点の誤認)

<1> 審決は、引用例に示されているマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがない」旨認定しているが、誤りである。

イ.まず、本件考案における孔2及び張出し上緑部3について検討すると、次のとおりである。

本件考案は、「蓋本体1に開設した掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2の両側上縁部から内側に相対して張出し上縁部3、3が張り出されており、その張出し上縁部3、3の対向間隔が掛止部7の巾より狭い巾に設定されている」との構成を有するものであるから、この張出し上縁部3、3の相対する間隔とは、掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2の上縁部のうち、両側から張り出された張出し上縁部3、3が介在されていない(閉塞されていない)空間部分を指していること、即ち、開蓋用切欠孔2の一部であることは実用新案登録請求の範囲の記載から明らかである。

そして、この張出し上縁部3、3の相対する間隔、したがって、孔2の上縁部(蓋本体1の表面側)の一部が掛止部7の巾より狭い巾となっているものであるから、本件考案における「孔2」は、蓋本体1の厚さの範囲内において、掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔の部分(蓋本体1の表面側)とそれより大きい巾を持つ孔の部分(狭い巾の孔の部分の下側で蓋本体1の裏面側)とからなり、それを縦方向(上下方向)に繋げた構造のものであることに外ならない。

上記のことは、本件明細書において、「第1図及び第2図に示す様に蓋本体1の周縁部の一個所に開設された孔2は、その両側上縁部に張出し上縁部3、3が開蓋用治具4の掛止部7の巾より狭い間隔でそれぞれ互に対向側にある長さだけ張出しており、外観上孔2は該部分だけはその奥の方が幅広状を呈している。」(甲第3号証2頁左欄28行ないし34行)と記載され、幅広状の部分(張出し部でない部分)のみならず幅狭状の部分(張出し部である部分)との双方を指して「孔2」と称していることからも明らかである。

審決が、「本件考案は、張出し上縁部3、3の相対する間隔を掛止部7の巾より狭くした」との点を構成上の相違点として挙げていないことは、張出し上縁部3、3の相対する間隔は掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔2の部分であると認識しているからである。

しかして、本件考案における張出し上縁部3、3は、蓋本体1に形成され、その表面に開口する開蓋用切欠孔2における、掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔の部分の両側縁に位置しており、その裏面と治具4の掛止部7との係合を介してテコ作用と旋回の一連動作により蓋本体1の開蓋動作に供されるものである。

ロ.引用例には、「蓋本体の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け、開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾と長い長さを持つU字形の孔を、表面から裏面にかけて貫通して開設したことを特徴とするマンホール蓋の開蓋構造。」が示されている。そして、引用例のマンホール蓋においても、その周縁に形成され治具先端のT字形掛止部の巾より狭い巾を持つ開蓋用のU字形切欠孔の両側縁に位置し、蓋本体の一部をなしているものの裏面と掛止部との係合を介して、テコ作用と旋回の一連動作により蓋本体が開蓋されるものである。

そこで、本件考案と引用例のマンホール蓋を対比すると、本件考案の蓋本体1の表面に切欠開口された掛止部7の巾より狭い巾の孔2の部分は、テコ作用と旋回の一連動作により蓋本体の開蓋動作に供される点で、引用例のマンホール蓋の表面に形成された開蓋用のU字形切欠孔と同一であり、張出し上縁部3、3は蓋本体1と一体となっているものであるから、引用例のマンホール蓋の開蓋用U字形切欠孔の両側緑に位置する部分は、本件考案の張出し上縁部3に相当する。

したがって、審決が、引用例のマンホール蓋の開蓋用U字形切欠孔について、「孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがない」と認定、判断したのは誤りである。

<2> 本件考案と引用例のマンホール蓋とは、本件考案は、蓋本体1内で、孔2として蓋本体1の表面に開口する掛止部の巾より狭い巾を持つ孔の下側に掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔を接続形成しているのに対し、引用例のマンホール蓋では、蓋本体内にかかる掛止部の巾より大きい巾を持つ孔に相当する部分を備えていない点で相違するだけである。

しかしながら、本件考案における蓋本体1の厚さと張出し上縁部3との厚さには耐久性上大差を設けることができないものであるから、巾の大きい孔2によって形成される壁の高さは、実際上微々たる寸法のものとなるにすぎない。

しかも、本件考案の実用新案登録請求の範囲には、「蓋本体1の周縁部の一個所に・・・孔2を開設し」とあるように、孔2は蓋本体1の厚さの範囲内に形成されるのであり、孔2の壁部が補強壁などを指さないことも自明である。

しかして、巾の大きい孔内には、掛止部7の上側部のごく一部の部分のみが収容されるにすぎず、その下側の大半の部分は蓋本体1裏面の空間部9内に跨がって収容されざるを得ないことになる。そのため、掛止部7の挿入具合によっては、掛止部7の一側端部が張出し上縁部3の下面ではなく、孔の部分を越えてその先の蓋本体1の裏面の部分に係合する一方、他側端部は宙に浮いた不安定な状態となり、所期の目的を達成し得ないおそれが多分にある。

したがって、掛止部7との係合を介した蓋本体1の持ち上げや旋回という開蓋操作において、本件考案は、引用例のマンホール蓋のように掛止部の巾より大きい巾を持つ孔の部分を形成せず、蓋本体の裏面と掛止部との係合を介して開蓋操作をする場合と比較して何ら作用効果上の相違が生ずるものではなく、掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔の部分を蓋本体1に形成することは、技術的に無意味な構成上の付加ないし単なる設計的な事項にすぎない。

<3> 以上のとおり、本件考案の孔2の張出し上縁部3、3間の間隔を掛止部7の巾より狭くしたとの点、即ち孔2の狭い巾の孔の部分は、引用例のマンホール蓋のU字形の孔に相当するものであり、張出し上縁部3、3は引用例のマンホール蓋と同様当初から蓋本体の一部として存在するものであるから、引用例のマンホール蓋はこの張出し上縁部3、3に相当するものを有している。引用例のマンホール蓋は、蓋本体内の下側に本件考案でいうところの掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔の部分を有しない点で本件考案と構成を異にするものであるが、この相違点により格別の作用効果の相違が伴うものではなく、この点の存在は単なる無意味な構成上の付加ないし単なる設計的事項の相違に属するものであるにすぎない。両者は、その他の構成の点で一致し、それに伴う開蓋操作上の作用効果を全く同一にするものである。

よって、引用例のマンホール蓋が本件考案の張出し上縁部3に相当するものを有しないことを前提とする審決の相違点の認定は誤りであり、それが審決の結論に重大な影響を及ぼすことは明らかである。

(2)  取消事由2(作用効果についての判断の誤り)

審決は、本件考案は、「蓋本体を開閉する場合に、治具の掛止部が左右の張出し上緑部の下面に引っ掛かり、しかも掛止部の両側が孔の壁部に当接するため、治具の首部が左右の張出し上緑部の間隔より細くても横方向にずれ動いたり外れることがなくて安定することになり、重量のある蓋本体を安全に、確実に、しかも極めて迅速に開閉することができる」という格別の作用効果を奏するものと判断している。

本件考案の実用新案登録請求の範囲において、蓋本体1に開設する孔2は、「掛止部7の巾より大きい巾を持つ」として、その下限の巾が限定されているが、上限の巾については何ら限定ないし特定されておらず、その巾の設定は不定である。これに対し、張出し上縁部3の相対する間隔(蓋本体1表面に開口する孔2の巾の狭い部分)と治具4の首部との隙間には一定の限界があるので、蓋本体1の開閉時に、掛止部7の両端が蓋本体1内における孔2の壁部に当接することは全くあり得ないことはもとより、その上限の巾の設定如何によっては掛止部7の一端でさえ常に当たるとは限らない。

したがって、上記作用効果は本件明細書に記載されているとはいえ、実用新案登録請求の範囲に記載の構成に対応するものではなく、本件考案の構成に基づく特有な作用効果とは到底認められないから、審決の上記判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1ない3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  被告の反論

(1)  取消事由1について

本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載はもちろん、考案の詳細な説明のどの部分においても、「孔2」は「掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2」としか理解できないし、「間隔」は「掛止部7の巾より狭くした張出し上縁部3の相対する間隔」としか解釈できない。

そして、本件明細書において、「孔2」の前に「外観上」と記載されていることからも明らかなように「外観形態はT字形」であれ何であれ、それは正に「外観上」のことであって、「孔2」は「掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2」以外の何物でもなく、ましてや掛止部7の巾より狭い巾の部分とそれより大きい巾の部分とからなるものではない。

上記のとおり、本件考案の「孔2」は、掛止部7の巾より大きい巾の部分に限定され、「間隔」は掛止部7の巾より狭い巾の部分であるから、本件考案の第5図、第6図の実施例においても、「孔2」は張出し上縁部3、3及び「間隔」の下側に位置する部分であり、「孔2」は「間隔」を介して外部に開口していると判断すれば充分である。

引用例に、「蓋本体の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾と長い長さを持つU字形の孔を表面から裏面にかけて貫通して開設したことを特徴とするマンホール蓋の開蓋構造」が示されていること、引用例のマンホール蓋においても、「1つの治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができるので開蓋作業が簡単になると共に、蓋自体もバール孔と鍵孔を別々に形成しないで済むという効果がある。」ことは認める。

しかし、引用例のマンホール蓋のU字形の孔は、掛止部の巾より狭いものに限定されており、孔のどの部分が、本件考案の張出し上縁部3に相当するのか理解できない。

(2)  取消事由2について

本件考案の孔2は、蓋本体1の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け開設した構成であって、掛止部7より大きい巾であるから、掛止部7の端部が当接する巾であることは、当業者であれば容易に理解することができる。そして、本件考案は、治具の掛止部を張出し上縁部の下面に引っかけるとともに、端部を孔2の壁部に当接させることにより、開閉操作がきわめて安定して安全で、しかも迅速に開閉することができるという顕著な作用効果を奏するものである。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3は当事者間に争いがない。

そして、審決の理由の要点(3)<1>のうち、甲第7号証、甲第13号証に示されるマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上縁部には、本件発明でいうところの張出し上縁部3に相当するものがない」との認定を除いた部分、同(3)<3>のうち、甲第17号証、甲第19号証、甲第20号証に示されるマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上縁部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがないものであるから、それらにも、本件考案の構成に欠くことのできない事項である前記の点は示されていない。」との認定を除いた部分についても、当事者間に争いがない。

2  本件考案の概要

成立に争いのない甲第3号証によれば、「従来の地下構造物用蓋は、その周縁にバール孔を設けておき、そのバール孔に長尺物(バール)を挿入しテコ作用で地下構造物用蓋を持ち上げ、次いで上記バール孔とは別個のいわゆる鍵穴に旋回用金具を挿入し該金具を手で持って地下構造物用蓋を旋回せしめ開蓋するという二段階の操作をしなければならなかった。」(甲第3号証2頁左欄12行ないし18行)ことから、本件考案は、「上述の欠点を解消し容易に開蓋できる地下構造物用蓋の提供」(同頁左欄19行、20行)を目的として、前示要旨のとおりの構成を採用したものであって、「蓋を開くのに例えばバールと旋回用金具という様に2つの工具を用いることなく、1つの治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができるので開蓋作業が簡単になると共に、蓋自体もバール孔と鍵穴を別々に形成しないで済む」(同頁右欄31行ないし36行。以下「第1の作用効果」という。)、「蓋本体を開閉する場合に、治具の掛止部が左右の張出し上緑部の下面に引っ掛かり、しかも掛止部の両端が孔の壁部に当接するため、治具の首部が左右の張出し上緑部の間隔より細くても横方向にずれ動いたり外れることがなくて安定することにより、重量のある蓋本体を安全に、確実に、しかも極めて迅速に開閉することができる。」(同2頁右欄末行ないし3頁左欄7行。以下「第2の作用効果」という。)という作用効果を奏するものであることが認められる。

3  取消事由1について

(1)<1>  本件考案の実用新案登録請求の範囲には、開蓋用切欠孔である孔2について、「蓋本体1の周縁部の一個所に周緑部から中心に向け開蓋用治具4の掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2を開設し」、「該孔2の両側上縁部には周縁部から中心に向って内側に相対した張出し上縁部3を設け、」、「上記張出し上縁部3の相対する間隔を掛止部7の巾より狭くした」と規定されるように、孔2は、蓋本体1に開設され、開蓋用治具4の掛止部7の巾より大きい巾を持つとともに、その両側上縁部には相対する間隔が掛止部7の巾より狭い張出し上縁部3が設けられるものであるから、その形状は、孔の下部に比較して孔の上部を小さくした上下に異なる巾を有する凸型段部状のものであると認められる。

本件明細書の考案の詳細な説明においても、本件考案の第1の実施例について、「蓋本体1・・・に開設された孔2は、その両側上縁部に張出し上縁部3、3が・・掛止部7の巾より狭い間隔でそれぞれ互に対向側にある長さだけ張出しており、外観上孔2は該部分だけはその奥の方が幅広状を呈している」(甲第3号証2頁左欄29行ないし34行。別紙図面第1、第2、第4図参照)、第2の実施例について、「孔2は・・・その両側上縁部に・・掛止部7の巾より狭い間隔で張出し上縁部3が全長に渡って互に対向側に張出した形態のものもあり」(同2頁右欄10行ないし15行。別紙図面第5ないし第7図)と、上記認定に符合する記載がなされていることが認められる。

ちなみに、「張出し上縁部」は、「張出し」及び「上縁部」という用語自体からしても、蓋本体の上方部分にその厚さの一部をもって張り出している構造体であると解される。

上記認定のとおり、本件考案における孔2は、孔の下部に比較して孔の上部の1部(第1実施例)あるいは全体(第2実施例)を小さくした上下に異なる巾を有する凸型段部状のものであって、孔2の上部には掛止部7の巾より狭い間隔で張出し上縁部3を設けるものであり、この構成によって、掛止部7がこの張出し上縁部3に下方から接するようにして、1つの治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができ、蓋自体もバール孔と鍵穴を別々に形成しないで済む(第1の作用効果)とともに、掛止部7の両端が孔の下部を形成する掛止部7の巾より大きい巾を持つ壁部に当接するため、治具の首部が左右の上縁部の間隔より細くても、横方向にずれ動いたり外れることがなくて安定する(第2の作用効果)という前記認定の作用効果を奏するものと認められる。

<2>  引用例に、「蓋本体の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け、開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾と長い長さを持つU字形の孔を表面から裏面にかけて貫通して開設したことを特徴とするマンホール蓋の開蓋構造。」が示されていることは当事者間に争いがなく、引用例のマンホール蓋においても、U字形の切欠孔における、蓋本体の裏面と掛止部との係合を介して、「1つの治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができるので開蓋作業が簡単になると共に、蓋自体もバール孔と鍵穴を別々に形成しないで済む」という効果を奏するものであることは、被告の自陳するところである。

<3>  本件考案と引用例のマンホール蓋の開蓋構造とを対比すると、両者は、「蓋本体の周縁部の一個所に周縁部から中心に向け開蓋用治具の掛止部の巾より狭い巾を持つ孔を開設したことを特徴とする地下構造物用蓋の開蓋構造。」である点で構成を同じくするが、本件考案は、蓋本体1内で、孔2として蓋本体1の表面に開口する掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔の下側に掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔を接続形成しているものであるのに対し、引用例のものでは、蓋本体内にこのような掛止部の巾より大きい巾を持つ孔に相当するものを備えていない点で相違するものと認められる。

ところで、本件考案において、蓋本体1に張出し上縁部3を形成したことによる、掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔の部分が、引用例のマンホール蓋におけるU字形の孔と同様に、1つの開蓋用治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができるという第1の作用効果を奏する構成であることは明らかである。

しかし、本件考案は、この孔の下側部分に掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔を接続形成し、この壁部に掛止部7の両端が当接するため前記のとおりの安定が得られるという第2の作用効果を奏する構成を備えるものであるのに対し、引用例のものは、蓋本体内に掛止部の巾より大きい巾を持つ孔を備えておらず、第2の作用効果を奏さないことが明らかである。

しかして、第2の作用効果を奏する本件考案の上記構成は、蓋本体1に開設した孔2の両側上縁部に周縁部から中心に向って内側に相対した張出し上縁部3を設けたことと密接不可分の関係にあるところ、引用例のマンホール蓋は蓋本体内に掛止部の巾より大きい巾を持つ孔を備えておらず、第2の作用効果を奏さないものであるから、審決が、引用例のマンホール蓋の周縁に設けられているU字形の孔について、「孔の両側上緑部には、本件考案でいうところの張出し上縁部3に相当するものがない」と認定、判断した点に誤りはないものというべきであり、したがって、引用例には、本件考案の構成に欠くことができない「蓋本体1の周緑部の一個所に周緑部から中心に向け開蓋用治具4の掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔2を開設し、該孔2の両側上縁部には周縁部から中心に向かって内側に相対した張出し上縁部3を設けた点。」が示されていないとした認定、判断にも誤りはない。

(2)<1>  原告は、本件考案の蓋本体1の表面に切欠開口された掛止部7の巾より狭い巾の孔の部分は、テコ作用と旋回の一連動作により蓋本体の開蓋動作に供される点で、引用例のマンホール蓋の表面に形成された開蓋用のU字形切欠孔と同一であり、張出し上緑部3、3は蓋本体1と一体となっているものであるから、引用例のマンホール蓋の開蓋用U字形切欠孔の両側縁に位置する部分は本件考案の張出し上縁部3に相当するとして、審決が、引用例のマンホール蓋の開蓋用U字形切欠孔について、「孔の両側上緑部には、本件考案でいうところの張出し上緑部3に相当するものがない」と認定、判断したことの誤りを主張する。

本件考案において、蓋本体1に張出し上縁部3を形成したことによる、掛止部7の巾より狭い巾を持つ孔の部分が、1つの開蓋用治具のみで蓋本体の持ち上げと旋回を連続的に行うことができるという点(第1の作用効果)は、引用例のマンホール蓋におけるU字形の孔と共通しているということができる。

しかし、本件考案は、蓋本体1に開設した孔2の両側上縁部に周縁部から中心に向って内側に相対した張出し上緑部3を設けたことと密接不可分の関係にある、孔2の下側部分に掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔を接続形成したことによって、第2の作用効果が得られるのに対して、引用例のマンホール蓋は、蓋本体内に掛止部の巾より大きい巾を持つ孔を備えておらず、第2の作用効果を奏さないのであるから、引用例のマンホール蓋の開蓋用U字形切欠孔の両側縁に位置する部分が、本件考案の張出し上縁部3に相当するものと認め難いことは明らかである。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

<2>  原告は、本件考案における蓋本体1の厚さと張出し上縁部3との厚さには耐久性上大差を設けることができないものであるから、巾の大きい孔2によって形成される壁の高さは実際上微々たる寸法のものとなるにすぎず、しかも、孔2は蓋本体1の厚さの範囲内に形成されるものであって、孔2の壁部が補強壁などを指さないことも自明であるから、巾の大きい孔内には掛止部7の上側部のごく一部の部分のみが収容されるにすぎず、その下側の大半の部分は蓋本体1裏面の空間部9内に跨がって収容されざるを得ないことになり、掛止部7は安定せず、所期の目的を達成し得ないおそれが多分にあるから、引用例のマンホール蓋のように掛止部の巾より大きい巾を持つ孔の部分を形成せず、蓋本体の裏面と掛止部との係合を介して開蓋操作をする場合と比較して何ら作用効果上の相違が生ずるものではなく、掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔の部分を蓋本体1に形成することは、技術的に無意味な構成上の付加ないし単なる設計的な事項にすぎない旨主張する。

しかしながら、本件明細書に「蓋本体を開閉する場合に、治具の掛止部が左右の張出し上縁部の下面に引っ掛かり、しかも掛止部の両端が孔の壁部に当接するため、治具の首部が左右の張出し上緑部の間隔より細くても横方向にずれ動いたり外れることがなくて安定することにより、重量のある蓋本体を安全に、確実に、しかも極めて迅速に開閉することができる。」(甲第3号証2頁右欄末行ないし3頁左欄7行)と記載されていることからしても、開蓋操作時に、掛止部7が張出し上縁部3の下面に形成された孔2の壁部に当接する現象が生じ、第2の作用効果を奏することは疑いのないところであると認められ、技術的にみても、掛止部7の一部のみの収容では上記安定が得られないとは認められず、本件考案のように掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔の部分を蓋本体1に形成することが、技術的に無意味な構成上の付加ないし単なる設計的な事項にすぎないものとは認められない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。

4  取消事由2について

原告は、本件考案の実用新案登録請求の範囲において、蓋本体1に開設する孔2は、「掛止部7の巾より大きい巾を持つ」として、その下限の巾が限定されているが、上限の巾については何ら限定ないし特定されておらず、その巾の設定は不定なものであるのに対し、張出し上縁部3の相対する間隔(蓋本体1表面の開口する孔2の巾の狭い部分)と治具4の首部との隙間には一定の限界があるので、蓋本体1の開閉時に、掛止部7の両端が蓋本体1内における孔2の壁部に当接することは全くあり得ないし、その上限の巾の設定如何によっては掛止部7の一端でさえ常に当たるとは限らないから、本件考案の第2の作用効果は、実用新案登録請求の範囲の記載に対応するものではなく、本件考案の構成に基づく特有の作用効果とは到底認められないとして、第2の作用効果を格別のものとした審決の判断の誤りを主張する。

本件考案において、開蓋操作時に掛止部7が収容される孔2は、蓋本体1に開設され、掛止部7の巾より大きい巾の部分であるが、実用新案登録請求の範囲には、その巾の上限について明示的記載はない。

しかしながら、前記のとおり、本件明細書には、第2の作用効果に関して、「蓋本体を開閉する場合に、治具の掛止部が左右の張出し上縁部の下面に引っ掛かり、しかも掛止部の両端が孔の壁部に当接するため、」(甲第3号証2頁右欄37行ないし3頁左欄2行)と記載されていること、考案の詳細な説明には、本件考案の実施例につき、「第1図及び第2図に示す様に蓋本体1の周縁部の一個所に開設された孔2は、その両側上縁部に張出し上縁部3、3が・・張出しており、外観上孔2は該部分だけはその奥の方が幅広状を呈している。」(同2頁左欄28行ないし34行)、「蓋本体1に開設されている孔2は・・第5図及び第6図に示す様にその両側上縁部に・・・掛止部7の巾より狭い間隔で張出し上緑部3が全長に渡って互に対向側に張出した形態のものもあり、・・・。そしてこの第5図及び第6図に示した形態の孔を有する地下構造物用蓋の開蓋は、・・・該治具の挿入時に先端部分4-1の掛止部7が孔の上縁部に当らない様な方向にして挿入し、次いで治具を回動させてこの先端の掛止部7が張出し上縁部3に下方から接する様にする点が前述の第1図及び第2図に示したものと異なるが、その他は同様である」(同2頁右欄10行ないし26行)と記載されていることからすると、本件考案における開蓋操作時に掛止部が収容される孔は、開蓋操作時に掛止部の移動及び回動に支障を来すことなく、開蓋操作の安定を図るという第2の作用効果を奏するべく設けられるものであることは明らかであり、そうとすると、その孔の巾の上限も上記条件を満たすべく、掛止部7の巾より若干大きい程度に設計されるべきであることは、当業者であれば、当然に理解し得る程度のことと認められる。

したがって、本件考案の実用新案登録請求の範囲に掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔の上限について明示的記載がないからといって、原告が想定するような、蓋本体1の開閉時に、掛止部7の端部(なお、本件明細書には「掛止部の両端が孔の壁部に当接する」(甲第3号証3頁左欄2行)と記載されているが、本件考案における「掛止部7の巾より大きい巾を持つ孔」との構成から、掛止部の両端が孔の壁部に「同時に」当接するはずがないことは明らかであり、上記記載は、「掛止部の両端のいずれかが孔の壁部に当接する」という趣旨であると認められる。)が孔2の壁部に当接することが全くあり得ないような極端に大きい巾を持つ孔が本件考案に含まれないことは明らかであり、本件考案の第2の作用効果は本件考案の構成に基づく特有のものというべきである。

上記のとおりであって、原告の上記主張は採用できず、取消事由2は理由がない。

5  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用(参加によって生じた費用を含む。)の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、66条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濱崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面

<省略>

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